ツタヤ・スタバから見る地方創生の難しさ



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宮崎県延岡市は、人口12.2万人の旭化成城下町です。宮崎県の県北部に位置し、宮崎空港と大分空港のちょうど真ん中くらいに位置します。東は海に、西は山に面しており、高速道路も最近開通したこともあり、地の利が良いとも言えないこの地方都市のJR延岡駅におしゃれなツタヤとスターバックスが突然、やってきました。なぜでしょう?

宮崎県の延岡駅とは

かつて延岡駅には、高千穂線という超ローカル線が走っていましたが、2005年の台風の影響により線路が寸断され、惜しまれながらも2008年に廃線となりました。今では線路とトンネルの遺構が残る程度です(映画「STAND BY ME」のように、冒険のし甲斐がありますよ)。

最近では、延岡駅の利用客は1,160人(日)と決して多くはありません(※)。例えば、東京都武蔵野市のJR吉祥寺駅では、143,313人(日)と100倍以上の差がありますが、スターバックスは5店舗と、1日当たり駅利用客でみると、延岡駅1店舗:1,160人に対し、吉祥寺駅は1店舗:28,663人となり、実に24.7倍の差があります。延岡市のことをちょっと知っていると、「なぜかしら?」と疑問が浮かぶのです。(出典)(出典

延岡市の将来推計人口は、2015年の12.5万人から、25年後の2040年には約9万人へと減少するとされています。この傾向は延岡市に限らず、全国の地方自治体でも同様です。

延岡市の将来推計人口
延岡市の将来推計人口 出典:国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)』より作成

ツタヤ・スタバの入る複合施設は延岡駅のエンクロスという名称です。「公共複合施設エンクロスでは日常的に市民活動・イベントが開かれ、カフェが併設された空間で、書籍販売や図書閲覧ができ、キッズスペースもご用意しています。」とあるように、公共施設であることから、延岡市が運営主体となっている施設です。約2万冊の図書が閲覧できるスペースもあり、とても住民目線であるとも言えます。(※新しもん好きな延岡っ子は、ツタヤはさておき、スタバは切望していたはず。)

一方で、ツタヤを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)が、この施設の指定管理者です。指定管理者とは、市などに代わり、民間企業が運営を担うことで、市が独自で運営するよりも効率的に運営することで、「低コスト」で市民サービスを提供するという方法です。多くの地方公共団体が採用する運営主体です。公共サービスをコストを意識しながらも満足度の高いサービスとして提供するための仕組みですが、この費用は地方公共団体が負担しており、元をたどると、その地域の企業・住民の税金で賄われているものです。

市が指定管理者へ運営費を支払って、「居てもらう」

この施設の運営費は、一年間で1.4億円です。うち、人件費0.72億円、光熱費0.15億円とされています。これを支払えば、ツタヤとスタバは、どんなに売り上げが悪くても、撤退することはありません。延岡市の歳入は545億円ですから、「観光投資」と考えれば、0.25%程度はお安い投資かもしれません。指定管理者の運営委託期間は5年間ですので、まずはCCCにやっていただき、費用対効果が悪ければ、次のプランを考えるのも良さそうです。

歳入

平成30年度延岡市一般会計当初予算

問題は、これを「足がかり」にすることができるのか?という点に絞られます。

近年、延岡市は観光協会を中心に、新しい延岡市の魅力を発信するための試行錯誤をしており、この点においては、他の地方都市に引けを取りません。例えば、歴史や海産物に目が向きやすいのですが、マリンスポーツ、アウトドアなども開拓しています。

地方創生の基本的な考え方は二つあり、一つは「外貨の獲得」があります。これまでの延岡市は旭化成がその役目を担っていましたが、ずいぶん長く続いた企業城下町も、世界と戦わなくてはいけない企業戦略の下では、それに依存するわけにはいきません。少子高齢化が進む典型的地方都市において、外貨獲得のための「インバウンド(地域外からの観光客)」の誘致は重要な戦略となります。しかしながら、当延岡地域は地の利が良いとは言えず、インバウンド需要を取り込むことは、相応の工夫が必要です。

もう一つは、地元の力です。今回のエンクロスを例にとれば、利用客の少ない駅だけが立派になり、駅周辺の商店街、土産物店軒並みシャッターを閉ざしている点です。鶏と卵の問題と同じで、どちらを先に整備するかということも言えますが、駅の周辺の活気、観光資源、交通の便も同様に重要となるため、駅だけの「点」の整備ではなく、組み合わせた「面」で攻めていく必要があります。

延岡市は、市内の商業高校と協力し、駅周辺の活性化の取り組みを行っています。その取り組みの一つに、延岡商業高校の流通経済科の生徒たちが授業の一環として、経営・仕入れ・販売を行うチャレンジショップ「和」の運営(2018.9.21〜2018.12.18 14:00~17:00(毎週 火曜 金曜))があります。地元のニュース番組でも取り上げられたようですが、市民の評判はおおむね良好です。観光需要の取り込みとして、地域外からの観光客を呼び寄せ、地域内の住民で対応するという取り組みが今後も継続することに期待です。

エンクロスの図書館に対する論文まで

さて、このエンクロスについて、別の視点で考察している方もいらっしゃいます。エンクロス内に設けられた「図書空間」の特徴について、過去の5館の 「ツタヤ図書館」と運営コンセプトにおいて大きく異なる点につき論じる論文(出典)が大阪市立大学で発表されています。

これによると、「エンクロス」内の「図書空間」は複合施設の観客誘因施設としての位置づけであり、 図書館・室としてのサービス機能は考えられていない、と指摘しています。また、延岡市駅前複合施設条例に記載されている第3条から以下の記載を抜粋しています。

  1. 市民活動の推進その他地域交流の促進に関すること情報発信スペース ・Free Wifi ・物品販売 ・キッチンスペース ・市民活動の登録 ・イベント、ワークショップの開催
  2. 図書その他の資料の閲覧に関すること…「図書空間」(なぜか、名称がない)
  3. 飲食の提供に関することスターバックスコーヒー
  4. 市民活動、地域特産品その他市政に関する 情報の収集及び提供に関すること情報発信スペース ・市民活動の登録 ・NOBEOKA 100mile project
  5. 子育て中の親とその子どものための交流及 び集いの場の提供に関することキッズスペース ・イベント、ワークショップの開催
  6. 公共交通機関を利用する旅客の待合の提供に関すること待合スペース
  7. 前各号に掲げるもののほか、前条の設置目的を達成するために市長が必要と認める事業に関すること。蔦屋書店

さらに、「図書空間」(なぜか、名称がない)については、「図書その他の資料の閲覧に関すること」と明確に閲覧サービス限定が、条例に明記されている。 これから、複合施設「エンクロス」の各種場所、機能は条例に根拠を持つが、その内の「図書空間」は、決して条例設置の公立図書館ではないことが明らかである。と指摘しています。

地方公共団体の条例が、「指定管理者に選定されたCCCの施設提案内容をなぞったものとなっている。 」という指摘は、暗にCCCの提案を、延岡市がそのまま受け入れてしまった、ということが読み取れます。

手厳しい評価ですが、「見方を変えれば、蔦屋書店、スターバッ クスコーヒー、図書館という対して、多くの人手と維持予算がかかる図書館運営 を、極限まで疑似的に「図書空間」として置き換える新たな「ツタヤ・ビジネスモデル」の試みかもしれない。 」とあります。
現状では、そう思われても仕方がないくらいのスキームに見えてしまうのです・・・。でも、個人的に、この表現がとても好きです。

論文の最後には、「エンクロスは延岡市立図書館網とは連携していない存在である」ことから、「今後の展開に引き続き注目したい。」として、締められています。

地方創生のために、何をするか?

地方創生は、真剣に地域活性化を考える地方公共団体からすると死活問題です。何とか今後も地域の文化や福祉環境などを存続させるため、外貨獲得の手段を検討するものの、いち団体だけでうまく行くものでもありません。そこに企業が目を付け、コンサルティングと称し、自社の経営資源を活用した地方創生スキームを提案されてしまえば、それに乗ってしまうこともあるかと思います。【超重要な視点!】CCCも延岡市も、協力して新しいことを実施することが地域活性化の一手段となることを真剣に考えている、ということであり、騙した・騙されたという論点ではありません。

今後も日本全国で、地方創生と冠して様々な取り組みが実施されることと思われます。この際の成功事例は「地理的条件」等による影響を大きく受けるため、同じことを実施しても効果がない場合もあることでしょう。そんな際に、行政・企業という枠組みでコチョコチョやるのではなく、地域を巻き込みながら、外貨を獲得するという大きな目標をもって多様なアイデアを総合的に実施できるスキームを組み立てたいものです(難しいのですけど・・・)。

延岡市の今後の活躍に期待です。