農林水産物の輸出額を2019年に1兆円にするプロジェクト開始!



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先月末、農林水産省は、日本産の農林水産物の輸出拡大に向け、専用サイトを今夏までに設ける方針を明らかにしました。輸出に意欲的な生産者やバイヤー間で情報を共有できる仕組みを作るそうで、輸出額を来年2019年に1兆円(2017年は約8,070億円)とする政府目標に向けた取り組みの一環のようです。

グローバル・ファーマーズ・プロジェクトで輸出拡大に取り組む!?

農林水産省に、このような政策提言(自由民主党農産物輸出促進対策委員会提言(案))を行ったのが自民党の農産物輸出促進対策委員会という委員会で、小泉進次郎氏が委員長を務めています。小泉氏といえば、以前から農協改革に取り組んでおり、農協側といろいろあるようですが、「農家から消費者に届くまでに問屋を何社も通し、マージンが発生する。その間を取っ払い、農家の収入を増やす。」という考えが根底にあるのでしょうか。

これによりますと、「グローバル・ファーマーズ・プロジェクト(GFP)とは、生産者のコミュニティ支援による、農林水産物の輸出促進戦略のことを示します。基本的な考え方として、「“輸出途上国”日本は、何から取り組むべきか。まずは、必要な人に、必要な支援を届ける生産者コミュニティをつくり、成功事例を生み出すこと。」ということが掲げられています。

2050年には、日本の人口は20%近く減少する見通しである一方で、世界の人口は30%以上増加し、100億人に近づくとされています。急速な人口減少社会を迎える日本の農林水産業は、その生産基盤を維持・強化するために、輸出に新たな活路を見出さなければならない、という考えです。先進国では人口が減少しているのですが、新興国では必ず人口が増加していきます。新興国の中には、農作物の生産に適さない国もあり、地球規模でみた場合、どこかの地域でその食エネルギー生産を担うことで、経済活動に参画するという方法は必要となります。

この委員会で各方面にヒアリングし、その課題について挙げています。

  1. グローバルマーケットに合わせた生産・流通の必要性→グローバルニーズに最適化できていない…海外バイヤーから「日本の産品を買いたいが、ロットが集まらないから買いづらい」、「海外からの引き合いの強い品目があるものの、産地の対応が十分ではない」。
  2. 生産者への輸出に対する情報共有→生産現場での輸出に関する情報不足。…「輸出に関心はあるが、どうすればいいかわからない」、「海外の規制や国の支援策など必要な情報が十分届いていない」。
  3. 生産者との連携→生産者同士が連携できていない…輸出に関心を持ったポテンシャルの高い産品の生産者は相当数いるにも関わらず、「一部の海外マーケットでは、同一品目による都道府県間競争が行われていることで、高品質なものでも価格下落の傾向がある」など、互いに連携できていない。

そして、今回の提言では、農協のあり方とは真逆の理論が示されています。それは、「平等の名の下に広くうすい取り組みをするのではなく、真に結果を出しうる生産者を重点的に支援する」ということです。

輸出に本気で取り組む生産者を「グローバル・ファーマー」として登録し、コミュニティ化することで、海外各国のマーケットの情報や、政府の支援などの情報が、必要とする人々に確実に届くようにするとともに、コミュニティを徹底的に支援することで、同一品目のロットの確保や、同じ品目の生産者間で時期をずらした通年出荷体制を構築するという思想が示されてます。

さらに、コミュニティ内の生産者間の交流と連携によるシナジー効果を生むことで、日本ブランドの輸出を成功へ導くことで、さらに多くの生産者への支援の輪を広げていき、その結果として、2019年の一兆円目標を超えた輸出促進を実現し、日本を農林水産物の輸出先進国に変えていきたいという理想があるようです。

つまり、先の課題を達成するため、「世界市場の需要に則り、生産者へ十分情報を提供しながら、全日本として輸出品目(アイテム・ロット)の平準化を図る」と換言できるかと思います。

農林水産物を1兆円輸出する!

市場規模1兆円とは、どの程度の規模なのでしょうか。

もともと農林水産省では、我が国の農林水産物・食品の輸出は、平成25年から4年連続で増加しており、平成28年輸出実績は7,502億円であると推計しています。これを、平成31年の農林水産物・食品の輸出額の目標を1兆円とし、達成するため、「農林水産業の輸出力強化戦略」等に基づいた取組を実施していくものとしており、主な取り組みは以下の三点です。

農林水産物・食品の輸出額の推移
農林水産物・食品の輸出額の推移
  1. JFOODOの創設
    4月1日に創設した、新たな輸出サポート機関「日本食品海外プロモーションセンタ-」(略称:JFOODO)において、海外市場の把握、プロモーション、ブランディング戦略の立案・実行、継続的な販売支援等を実施。
  2. 輸出拠点整備の推進
    農林水産物輸出インフラ整備プログラムに基づき、輸出対応型の食肉処理施設や水産加工施設等の整備を推進。同プログラム中41施設の整備を計画しており、今年度までに19施設を稼働予定。
  3. 輸入規制の撤廃・緩和における取組
    28年度以降、原発事故に伴う食品の輸入規制については14か国・地域が撤廃・緩和、動植物検疫については8か国11件が輸出解禁・条件緩和。引き続き、関係省庁と連携の上取り組む。
新プロモーション機関(JFOODO)の創設
新プロモーション機関(JFOODO)の創設
農林水産物輸出インフラ整備プログラムに基づく輸出拠点整備の推進
農林水産物輸出インフラ整備プログラムに基づく輸出拠点整備の推進

出典:「農林水産物・食品の輸出額1兆円目標に向けた主な取組」(農林水産省)

農林水産業の輸出力強化戦略

平成29年度中の輸出拠点整備の推進事業としては、主に以下の4つの視点で支援が行われています。大項目だけ見ると、まさに製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)というフィリップ・コトラーのマーケティング戦略に則り、運営されているように感じます。

  1. 市場を知る、市場を耕す(ニーズの把握・需要の掘り起し)
  2. 農林漁業者や食品事業者を、海外へつなぐ(販路開拓、供給面の対応)
  3. 生産物を海外に運ぶ、海外で売る(物流)
  4. 輸出の手間を省く、障壁を下げる(輸出環境の整備)

また、このうち、2つ目の「農林漁業者や食品事業者を、海外へつなぐ(販路開拓、供給面の対応)」については、以下の7点の支援が行われました。

  1. 具体的な輸出商談を目的とし、“日本の食品”輸出EXPOを10月に開催
  2. JAグループは、香港や中国等に新たな海外拠点を設置するとともに、パートナー企業との連携を進めることにより営業力を強化。加えて、多収品種米の栽培による低コストの輸出産地づくりについて取組の倍増を目指す
  3. 香港での青果物の周年供給体制の取組に品目を追加するとともに、取組を行う国・地域を拡大○輸出先国の植物検疫上の規制等に対応した防除体系、栽培方法等に関する技術的サポートを実施
  4. 農林水産物輸出インフラ整備プログラムに基づき、輸出対応型の食肉処理施設や水産加工施設等の整備を推進
  5. ホタテやブリの安定した養殖生産体制の構築など、国内生産体制を強化
  6. 中国向け日本産パックご飯の輸出促進のためクルーズ船でのPR等、認知度向上の取組を強化するとともに、スーパー・コンビニ等での店頭PR活動などを実施し販売を強化
  7. シンガポール、香港などに海外の産直市場等を設置し販売する取組に対し、事業計画策定などを支援

JAグループによる支援も中心に据えています。たぶん、政府としてはJAグループには、もっと海外への営業力を強化して欲しいと考えているのではないでしょうか。(というか、まさにそこで、内向的な組織力ではなく、真に外交的な組織力の発揮を期待しているのでしょう。)

輸出力強化戦略に向けた具体的な提案

グローバル・ファーマーズ・プロジェクト(GFP)によると、具体的な提案として、以下の4点が挙げられています。確かに先の課題を達成するためには、コミュニティや連携、そして販売までの一連の流れを総合的にマーケティングしていく必要があります。そのため、これらの支援策の対象者は生産者だけにとどまらず、商社・バイヤーなど、売ることに長けている会社等も含まれています。

  1. 必要な人に必要な支援を届けるための“コミュニティ”の形成
    全国各地の少数派ではあるが、すでに輸出に取り組んでいる生産者や、これから取り組もうとする生産者を“グローバル・ファーマー(注)”として登録し、グローバル・ファーマーズ・コミュニティーを組織する。政府は、グローバル・ファーマーズ・コミュニティーに対して、品目ごとの海外マーケットからのニーズ、当該マーケットにアクセスする際の規制や規格認証などの情報、政府の支援策について、必要な情報を確実に届ける。コミュニティの運営にあたり、特設サイトの立ち上げ、ネットワーキングの場の設定等の取り組みを行う。支援策は(2)以降に掲げる通りである。
    注:農業生産者のみならず生産者団体をはじめ、林業者・漁業者・食品産業事業者・商社・バイヤーなど、輸出に取り組むあらゆるプレーヤーを含む
  2. “グローバル産地”の形成
    支援本委員会では、輸出事業者や生産者などから、取組の状況や課題、要望等を聴取したところ、「海外からの引き合いの強い品目があるものの、産地が十分対応できず輸出の機会を失っている」、「海外からのニーズが、必ずしも産地・生産者に的確に伝わっておらず、ニーズに対応した品質・ロットの生産が十分に行われていない」等の実態があることが確認された。そこでマーケットインの発想に立ち、余りものを輸出するのではなく、海外の買い手が欲しいものを、欲しい量だけ、欲しい時期に輸出する“グローバル産地”の形成のための支援を行う。(想定される具体例の一部は以下の通り)-海外市場のニーズや規制に対応した生産、加工体制有機などの海外ニーズや、農薬規制などに対応した生産および加工体制の構築を支援する。特に、設備投資や認証の取得、表示規制への対応などは時間を要するため、単年度ではなく、3~5年を目途に継続支援することとする。-コメの価格競争力強化、高付加価値生産主食米については、海外での量的販路拡大における一番のボトルネックである価格競争力を強化する必要がある。「コメ海外市場拡大戦略プロジェクト」の戦略的輸出基地の中から特に条件の合う産地を選び、新たな技術を活用したこれまでにない輸出向け価格帯での生産の在り方を、3ヶ年で実証する。一方で、価格競争に適さない中山間地域においては、有4機・自然栽培といった、海外において少量でも一定の需要のある付加価値の高い生産を支援する。-輸出ポテンシャルの高い木材製品の拡大2×4(ツ―バイフォー)住宅向けのフィート対応の加工をはじめ、輸出先国のニーズに対応した規格の内装・外装や構造向けの板材など、付加価値の高い木材製品の輸出を促進する。そのために、川上から川下までの事業者(森林所有者・素材生産業者と製材業者等)が連携した効率的なサプライチェーンを構築し、木材の安定供給体制の整備を進める。
  3. “365日輸出エキスポ”の実現
    海外市場のニーズに合わせて、商社、流通、生産者が常時マッチングできる場を設置し、輸出向けの商流または物流の拠点として、全国の産品と生産者を集める。海外からのアクセスの良い場所における輸出対応型市場、およびEコマースの活用も視野に入れたインターネット上も含めて、常時、輸出エキスポが開催されている環境を整備する。
  4. 日本ブランド確立のための戦略的マーケティング
    国際社会で日本のプレゼンスを高めるためには、「食」は重要なコンテンツであり、長期的には「食」を通じた日本のソフトパワーを強化する。このため、「日本産のモノを輸出する」という発想を捨て、「日本の文化を輸出する」という発想への転換と決意が必要である。海外ニーズに合わせた輸出体制の整備と同時に、付加価値の高い国産の農林水産物・食品を、価値に見合った価格で輸出するには、食文化を含めた日本の文化を世界に発信し、その高い価値を認知してもらうマーケットメイクの取り組みが欠かせない。その際、知見のある人材の育成・活用により、日本食の裾野を広げていく。昨年4月に設立された日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)において、対象の品目や国・地域に応じたターゲットを明確にした戦略的な日本産品マーケティングを、10年スパンで継続・強化し、日本ブランドを確立する。

そして、この提言では、「意欲と熱意ある生産者の努力が報われる輸出の将来像を描くためには、何よりもまず、成功事例をつくることが大事」としており、やる気のある生産者のよる成功事例を早々に求めています。行政の広く薄い支援ではなく、本気で輸出をやっていくと手を挙げた生産者のために、重点的な支援を高らかに宣言しており、最近の企業農家などには良い環境になりつつあるのではないでしょうか。

最後に、このように締めくくられています。

「1億人ではなく、100億人を相手にする農林水産業へ。“グローバル・ファーマーズ・プロジェクト”へのみなさんの参加を待っています。農林水産物輸出促進対策委員会一同」

平成29年度の農林水産物・食品の輸出取組事例

農林水産省では、「平成29年度農林水産物・食品の輸出取組事例」を公開しています。農林水産物・食品の輸出促進対策に基づくものですが、都道府県別の取り組みが紹介されています。これによりますと、北海道での取り組みが27件と多く、九州でも全体としては52件と数多く取り組んでいます。

取扱品目は米、青果物、花き、茶、畜産物、水産物、加工食品、アルコール飲料、林産物などで、中国・香港、台湾、韓国や米国、EUなど各国への輸出が行われています。

これらの事例を参考に、今後の1兆円産業のアイデアにしたいものですね。